37signalsの2人が書いた「小さなチーム、大きな仕事」(ジェイソン・フリード, デイヴィッド・ハイネマイヤー・ハンソン著. 黒沢健二, 松永肇一, 美谷広海, 祐佳ヤング 訳. ハヤカワ新書)、起業を志す個人から大企業の経営者まで、新しいビジネスを立ち上げる時の成功のヒントがぎっしり詰まった優れた本だと思いました。実は私は英語版の方を先に読んでいて、是非この本の日本語版を昔大変お世話になったある紳士に贈ろうと思いました。日本語版がうまく原書の内容を伝えられているかを確認するために日本語版を日本から取り寄せました。やはり翻訳って難しいですよね。例えば「ホールフーズ」という訳が、ある事例として本書の中に出てくるのですが、北米の大都市に住んだことがある人ならば知っているかもしれないスーパーの名前。知らないモノが例として出て来てもこまっちゃいますよね。そんな箇所が数十個もあって、この方のために簡単な読書ガイドを作ることにしたのです。折角作ったので、公開することにしました。
このページでは、日本語圏にいても、北米で書かれたこの本の言っていることをできるだけナチュラルに理解できるように、訳注を提供します。例えば35ページに出てくる「ホールフーズ」、一体なんなんだろうと思っても、綴りがわからなければ(Hole Foods?)Googleで検索しようもないですので、訳注として、「Whole Foods Market」が正式名称で、Whlole Foodsのオフィシャルページや、Wikipediaの関連ページへのリンクを張っています(日本語ページがあれば日本語版Wikipediaへのリンクも)。紙じゃないので、クリックできるところが素晴らしい。
本を読みながらこのページをスクロールしていくか、このページの一番上部のバナナ色のところにあるページ番号をクリックすれば、そのページの訳注にジャンプできます。(ええそうなんです、iPadなどのモバイルsafariだと、バナナはスクロールすると消えてしまいます。ご了承ください)
改善点や追加項目がございましたら、か、Geek寄りの方は、このページのgithubリポジトリにCommit Commentしてください(ちょと前に特定の行にコメントができるようになりました)。
原書には、各節ごとに素晴らしいイラストがついていて、飽きさせない。そのリンクはここ。是非このページにも張り付けたいので、原著者に利用許諾の問い合わせしておきます。例えば、同じ内容のページを日英比較すると、こんな感じです。
Enjoy!
感想現在、日本のビジネスの世界においては、「絶対に失敗せず、必ず成功せよ」という雰囲気が支配的な気がしますが、皆さんいかがですか?本書では、この後、「絶対に失敗を許さない」というわけでもなく「何度も失敗しろ」というわけでもない、good executionを連鎖させていく方法を問いていきます。
訳注 起業家は、原文では、「Entrepreneur」。合衆国でも地域によってこの単語の印象は異なる。シリコンバレーに住んでいた時のこと。娘の保育園のお友達の誕生パーティーで、あるお父さんが、IT系の大企業を辞めてWeb系ベンチャーを立ち上げた、という話をしたら、一同「You are an entrepreneur!!!」と、励ましともと尊敬の念ともとれる声があがって驚いたことがある。時々、ブログのプロファイルで「Entrepreneur」と名乗っている人を見るが、どうやら、超偉い肩書きらしい。これは日本にはない文脈。
訳注 craigslistのこと。クレイグスリストと訳されることが多い。Wikipedia(ja)関連ページ。Wikipedia(en)関連ページ
訳注 Matt Drudge氏のDrudge Reportのこと。Wikipedia(ja)関連ページ。Wikipedia(en)関連ページ
訳注 37signalsのCRMアプリHighriseのこと。実にシンプルで、サインアップ後数分で使い始められる優れもの。Wikipedia(en)関連ページ
訳注 Mary Kay Incのこと。Wikipedia(en)関連ページ
訳注 eBay Inc.のこと。年商90億ドルのオークションサイト。Wikipedia(ja)関連ページ。Wikipedia(en)関連ページ
訳注 Whole Foods Marketのこと。有機食品や環境に易しい生活雑貨の小売店チェーン。Wikipedia(ja)関連ページ。Wikipedia(en)関連ページ
訳注 原文は、「One of the first questions you'll probably ask: Where's the seed money going to come from?」私だったら、「ビジネスをはじめるにあたって、最初に思いつくのは、どこから開業資金を調達するのか、という疑問だろう。」と訳します。
訳注 ルビに「スタートアップ」とあるように、合衆国、特に、ベンチャーキャピタル界隈では、起業したての企業をstartupと呼ぶ。Wikipedia(en)関連ページの記述を読むとざっと雰囲気がわかるが、startupは、たいてい、VCが出資している企業か、VCが出資する前のつなぎ開業資金としてangelと呼ばれる個人からの投資を受けたまだ利益が上がっていない企業を呼ぶ。startupでは多くの場合、しばらくは、これらの外部資金を燃やして運営され、売上げが全くない、あるいは、利益があがらなくても許される。むしろ、じゃんじゃんお金を使って大きく売却できるように、という圧力が投資家からかかる場合が多い。本書の著者達は、こういう起業形態を強く批判している。
訳注 原文は、「You're better off with a kick-ass half than a half-assed whole.」「中途半端な出来の完成品より、機能や内容を半分に絞っている優れた中味の製品の方がいいに決まっている。」みたいな意。
訳注 原文は、「Directors cut good scenes to make a great movie. Musicians drop good tracks to make a great album. Writers eliminate good pages to make a great book. 」「映画監督は、よりすばらしい映画にするために、せっかく撮ったいくつかのシーンをカットする。たとえそのシーンの質が高かったとしても、だ。」みたいな意。
訳注 誤訳。原文は、「The answer: Pay affiliates in credit instead of cash.」クレジットカードを使ったのではなく、37signalsのサービス利用料の支払いの代わりに使える、クレジットポイントとして付与した。これにより、お金のやり取りが不要になり、受け取り側の税金上の問題をクリアできる。著者の一人Jasonによる2005/12/14付のブログエントリ、Basecamp Affiliate Program launchesを参照のこと。
訳注 キュレーターとは、美術館や博物館で、資料/作品を収集したり、収集したものを選んで効果的に陳列するプロのことを言う。美術館に陳列されているのは、その美術館が所蔵しているものの一部である。優れた選択眼を持った人々のみがキュレーターになれる。Wikipedia(ja)にも解説があるので参照のこと。
訳注 Zingerman's。ウェブサイト。Wikipedia(ja)関連ページ。Wikipedia(en)関連ページ
訳注 Pasolivo Olive Oilの紹介ページ
訳注 Gordon Ramsay's Kitchen Nightmares オフィシャルページ。Wikipedia(en)関連ページ
訳注 原文は、「Your project won't suffer nearly as much as you may fear.」「やることを減らしたとしても、あなたのプロジェクトは実は意外にうまくいくだろう。」みたいな意。
訳注 原文は、「You also see it in people who want to blog, podcast, or shoot videos for their business but get hung up on which tools to use.」「『ビジネスで、ブログやポッドキャスト動画を活用したい。さて、どのツールがいいんだろう?』と、ツールの選択で右往左往している人もいるよね」みたな意。
訳注 誤訳。原文は、「The most popular message written by customers on the walls: "Keep the store just the way it is."」「客が店の壁に書いたメッセージの中で一番多かったのが」みたいな意。このくだりの原記事は、Fast Company紙2002/4/30付Walk in Progress
訳注 Crate&Barrelのこと。この部分が参照している原記事は、Retail Trafficに掲載されたThe Crate and Barrel Story。Wikipedia(en)関連ページ
感想 「書類」という訳は、「ドキュメント」とした方が私の職歴上はしっくりする。それと、ソフトウェア業界にいてつくづく思うのだが、英語だと明快に記述できることでも、日本語だと大変だ、ということ。例えば、日本語では単数形と複数形は区別がないが、英語だとはっきり区別する。例えば、「ラップトップを持っている。」は英語では、「She has a laptop.」なのか「I have a laptop.」なのか「I have laptops.」なのか、主語と目的語をかなりの粒度ではっきり表現しなければならない。つまり、英語圏の著者達が「ドキュメント上の合意は幻想」と言っているのだから、日本語圏では泥沼となるのは当然かと。
感想 原書へのコメント。確かに、プロジェクトを細かいタスクにブレークダウンして、一個終わった毎にdone!と大声で言って祝福するのはとてもいい気分だし効果的で、実際私はプログラミングの時には実践しているのだが、そうもいかないタスクはある。私の経験上はデザインがそれにあたる。例えば、家の設計をドアだとかどこかの部屋の西側の壁だとかに細かくタスク分解して、それぞれの設計要素を完了させたとしても、家全体の設計をみると、どうもぎくしゃくしていてバランスが悪い、ということになりがちだ。デザインという作業は、モノによっては何週間もかけて、あーでもない、こーでもない、と悩みながら一個のデザインを仕上げる。とてもブレークダウンできない代物である。37signalsは、design firstという製品開発アプローチをとっていて、designを何よりも大事にしているから、designの苦しみはわかっていると思うのだが。
訳注 Zappos.comのこと。Wikipedia(en)関連ページ
訳注 Joel Salatinが所有するPolyface。Wikipedia(en)関連ページ
訳注 原文は、「John Bonham's solo on Led Zeppelin's "Moby Dick."」
訳注 原文は、「When you let customers outgrow you, you'll most likely wind up with a product that's basic - and that's fine. Small, simple, basic needs are constant. There's an endless supply of customers who need exactly that.」「もし、あなたより先に顧客の方が成熟するように仕向けていくと、あなたの作っている製品はきっとベーシックなものに行き着くだろう。それで構わない。小さくて、シンプルで、基本的なものへのニーズは不変だ。まさにそれを必要としている潜在顧客は際限なくいる。」みたいな意かな。
訳注 Typography.comのこと。
訳注 Etsy.comのこと。Wikipedia(en)関連ページ
訳注 Gary Vaynerchukのtv.winelibrary.comのこと。
訳注 Emeril Lagasse, Mario Batali, Bobby Flay, Julia Child, Paula Deen, Rick Bayless, or Jacques Pépin
訳注 ロングテールという言葉を生み出したChris Anderson率いるメディアWiredのこと。Wikipedia(en)関連ページ
訳注 Daring Fireballのこと。Wikipedia(en)関連ページ。最近では、AppleがiPhoneからAdobe Flash/Javaベースのアプリを追い出そうと、SDKの利用規約を変更したことに関しての、ブログエントリWhy apple changed section 3.1.1を、Steve Jobsが引き合いに出したことが記憶に新しい。
訳注 Lifehacker.comのこと。Wikipedia(en)関連ページ。日本版もあり。
訳注
カバーレターと言う。37signalsが2009年5月に採用したデザイナーJason Zimdarsのカバーレターの良例.
Source: http://jasonzimdars.com/svn/
訳注 原文は、「Hire managers of one ― Managers of one are people who come up with their own goals and execute them.」訳にある意でもあるが、ここは、もう少しビジネス寄りに、「『自分マネージャー(ひとりマネージャーと読む)』は、自分でゴールを設定し、自分でステップ、ステップを踏み、ゴール達成ができる人々のことを言う。」と言った方がしっくり来る気がする。
訳注 原文は、「Own bad news」訳が難しい。例えば、自分のコントロールが及ばない所の障害がきっかけで、自分のサービスが止まった場合、訳にあるような「過ち」ではないが、「bad news」には含まれる。ちょっと長いが、「不測の事態が発生した時は、誰よりも先に自分が報じて、他人のゴシップのネタにさせない。自分のネタにするのだ。」みたいな意。
訳注 原文での謝り方の文例のニュアンスは、日本語だとどうしても伝わりにくい。l2-3の本当は謝っていない最悪の謝り方の原文は、「We're sorry if this upset you」と「I'm sorry that you don't feel we lived up to your expectations.」l6のもう一つの悪い例の原文は、「We apologize for any inconvenience this may have caused.」コーヒーを引っ掛けてしまった時に、のうのうとapologizeなんて言わないし、Weとか使って、あたかも責任の所在を薄めようとしていることを批判している。また、any convenienceとか言って、ご不便なんてもんじゃない時には気持ちを逆なでするだけじゃないか。this may have causedとかいって、あたかも問題が発生していないかも知れないという主張をするのは、問題に実際に直面した顧客は逆上するだろう、という辛辣な批判を筆者らは加えている。
訳注 前掲のcraigslistの創始者のCraig Newmarkのこと。
訳注 大企業で育った自分にとって大事な項だったので、大意を補足しておく。l11の「現実に問題になってから考えれば良いことだ」の原文は、「It is not a problem until it is a real problem.」「よく言う問題というのは、現実に問題となるまで問題ではないのだ。」みたいな意。以降こんな意味だ。「あなたが、いろいろ心配することの殆どは、実際には起きないんだ。」「もう一つ言うと、あなたが今日決定したことは、永遠に変えないようにする必要はない。本来いいアイディアやネタ、よさげだったポリシー、あるいは価値あるはずだった実験を、長期間有効なものにしようと無理していろいろいじくり回し、つまらないモノに変えてしまうことは簡単に起きる。もし、小さなビジネスだったら、そんなことをしちゃいけない。無理に長期間有効なものにしようとくだらん緻密な計画をたてるのじゃなく、単に状況が変わったら、意思決定内容を変更すればいいのだ。決定は一時的なものなのだから。」「以上のことから、あなたのアイディアが現時点の顧客数5人から、顧客数5000人になるまで通用するかどうかを心配するのは、アホな考えと言えるだろう。製品やサービスを離陸させるだけでも大変だと言うのに、あること無いこといろんな想定問題をでっちあげる必要は無い。肝心なのは、今、現時点の状況に最適化されているかであって、将来のことは後で心配すればいい。」この次の段落は、本書訳文のままですっきりする。引用しておくと「小さいチームの大きな利点は、方針をすぐ変えられることだ。大きな会社と違い、素早く動けるのだ。だからこそ、「今日」に視点を合わせ、明日のことは明日考えればいい。そうしなければ、時間やエネルギーを起こりえない問題(を未然に防ぐこと)に注ぐことになってしまう。」
訳注
日本語で、このような表現で人材募集していることは皆無だと思うが、意味としては、カリスマとか、凄腕、とかいう意味である。実際の広告の例。
Source: http://www.seattle20.com/startup-jobs/AJAX-Rockstar-Commerce-Redfin-102273.aspx